チベット仏教には鬼のような形相の異形のチャナ・ドルジェ(ヴァジュラパーニ・金剛手菩薩)と呼ばれる菩薩が存在する。
チャナ・ドルジェは青黒い身体と右手に持つドルジェ(金剛杵)が特徴の仏で、『金剛杵を持つ菩薩』を意味する。
また、チャナ・ドルジェの姿のほとんどは忿怒形で表されるが一般的な柔和な姿の菩薩として描かれる事もある。
その場合、忿怒形と同じように青黒い身体で右手にドルジェを持ち、左手に蓮華や金剛鈴を持つ姿で描かれる。
彼の存在が意味するのは仏法を守護するガードマン的役割で、しばしばチベット仏教寺院にチャナ・ドルジェの仏像が置かれていたり、壁画が描かれる事もある。
ボクがチャナ・ドルジェの仏像を初めて見たのは初めてネパールに行った時の事。
ネワール仏教の聖地スワヤンブナートにある寺院群の中で、マ二車が設置された御堂にチャナ・ドルジェの巨大な仏像があった事を記憶している。
その他にもマ二車の奥に描かれている壁画や岩壁に彫られた姿等、チベット文化圏では一般的な菩薩の一つだ。
因みにマ二車とはチベットの真言(マントラ)が刻み込まれた巡礼者がクルクルと回す筒状の仏具の事で、チベット仏教寺院や聖地等に設置されている事が多い。
このマ二車を1回まわすと御経を1回読んだことと同じ効力を持つとされる事からチベット人達は来世に願いを込め、毎日何千回、何万回もマ二車を回しながら真言を唱えるのだ。
チベット人の必須アイテム『マ二車』について、もう少し詳しく書いている記事もあるので興味のある人はチェックして欲しい。
【チャナ・ドルジェと金剛杵】
チャナ・ドルジェの身体の色は青黒だが、これは魔を祓うための怒りの色であり、チベットではチャナ・ドルジェの絵が描かれた魔除けの護符というものが存在する。
また、チベットでは護符で自身を守るという仏教文化の他にも僧侶や寺院を守るため『イダム』と呼ばれる恐ろしい形相の守護尊の中から一尊を選び出し、守って貰うという文化も存在する。
ここで分かるのがチベット人達は神々に対して敬意を払っているのと同時に、魔から守って貰うという彼らの信仰心の高さも窺い知る事が出来る。
話を戻すがボクがチャナ・ドルジェに対してイメージするのは魔除けの意味もそうだが、手に持っているドルジェ(金剛杵)だ。
ドルジェはヒンドゥー教の神インドラが持っている伝説の武器であり、雷と同等のパワーを持っているとされる。
因みにインドラ(別名マヘーンドラ(偉大なインドラ)、シャクラ(帝王)等数々の名前がある。)
とはインド神話の英雄神で、ドルジェを持ちながらソーマ酒を飲み、魔神を倒すため戦車にのる神様だ。仏教名は日本でもお馴染みの『帝釈天』であり、東寺の立体曼荼羅ではイケメン仏像で知られている。
インドラは仏教に取り入れられた際、帝釈天となったが他にもガルーダやナーガ、ガネーシャ等、ヒンドゥー教の神々が仏教の護法神になり、特にチベット仏教では日本仏教よりも数多くの尊格を見る事が出来る。
チベット仏教の仏達の種類を取り上げた記事も読んで欲しい。
チベット文化圏ではドルジェは、誰かを救うための方法(方便)のシンボルとされ、真理を悟る為の智恵としてのシンボル『金剛鈴』とセットとして法要の際、使用されたり、チャクラサンヴァラを初めとしたチベットの神々の持ち物として仏画に描かれる事がある。
チベット仏教、ヒンドゥー教が盛んなネパールにはドルジェなどの仏具が沢山売っている仏具店が数多く存在するが、中でも印象的だったのはスワヤンブナートの丘の上にある巨大なドルジェだ。
インドラがいる天上の近くに雷の武器であるドルジェが設置されているのは宗教的意味を感じたが、見ていると猿が登っていたりして、少々恐かった(襲われるかも知れないから・・)
スワヤンブナートはモンキーテンプルと言われるくらい猿がうじゃうじゃして超恐い。
だが、ネパールの定番観光スポットスワヤンブナートには有名な仏塔や巨大ドルジェの他にも、仏塔がある丘周辺には数多くのチベット仏教寺院やマ二石、グル・リンポチェの仏像等、見るべき場所がいっぱいある。
因みに余り日本では知られていないがスワヤンブナート近くにある阿弥陀山(アミターバ・マウンテン)にはドゥクパ・カギュ派の巨大僧院ドゥクパ・アミターバ・ゴンパ(通称セト・ゴンパ)という土曜日限定で開門する尼寺があるので、是非1度行って欲しい。
【チャナ・ドルジェのマントラ】
チベット文化圏を旅するとマントラを口ずさむチベット人の姿をよく見かける。
有名なのは観音菩薩のマントラ『オム・マニ・ペメ・フム』だが、格尊格ごとに様々なマントラがあり、当然チャナ・ドルジェにも固有のマントラがある。
■チャナ・ドルジェのマントラ
オム・ニーランバラダラ・ヴァジュラパーニジュニャーパヤティ
また、以下の記事では他の尊格のマントラについて書いている記事があるのでチェックしておいて欲しい。