チベットの文化

日本・チベット密教における“守り本尊”という仏教文化とは?

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日本の密教では、開運厄除け・祈願成就の為『守り本尊』という習わしがあり、本尊とする仏達は生まれた年の干支によって決まるのだ。

このような習慣は仏教が盛んなチベットにおいても存在し、主に僧侶や寺院が『守り本尊』として仏達のカテゴリーから選び出すという事がある。

チベット仏教では、このような守り本尊を『守護尊(イダム)』といい、その殆どは日本では馴染みが無い恐ろしい表情をした無上兪伽タントラ(インド後期密教経典)の本尊達だ。

 

【秘密仏ヘールカ】

守り本尊とするイダムにはヒンドゥー教の神々からの影響が強いものが多い。彼らの身体は青く、トラの褌やシヴァ神といったヒンドゥー教の神々を踏みつけているのが特徴だ。

彼らの事を一般的に『ヘールカ』といいチベット仏教では盛んに信仰されている。

 

以下はチベット仏教の代表的なヘールカ一覧。

■ヴァジュラハイラヴァ

チベット仏教で最も異形な姿の仏であり、水牛の頭を持つヴァジュラハイラヴァは文殊菩薩の化身ともされる。

また無上兪伽タントラは『父(ふ)』『母(も)』『不二(ふに)』というタントラに分類されていて、この水牛の頭を持つ異形の仏は父タントラに属している。

因みにヘールカの殆どは身体が青いが、仏教的な意味合いを見れば青は煩悩に対する『怒り』の色である。

 

■チャクラサンヴァラ

母タントラに属するチャクラサンヴァラは妃(ヴァジュラヴァラヒ)を抱くヤブユムの姿で描かれている。

チャクラサンヴァラは三日月の髪飾りやダマル太鼓や三叉戟等、明らかにシヴァ神の影響を受けているが、彼が踏みつけているのは、紛れもなくシヴァ神とその妃なのだ。

これを見るとヒンドゥー教より仏教が優れていると物語っているようだ。

 

■ヘーヴァジュラ

妃ナイラートマーを抱く姿で描かれるヘーヴァジュラだが、これはあまねく全ての如来を飲み込み、精子として還元させ、妃の体内に入り、世界を想像し、悟りへと至るという宗教的実践行為の過程を表している。

ヘーヴァジュラは武器を持つ姿で描かれる事もあるが、一般的なのは十六の手にカッパーラを持つ姿だ。

この場合、右の八本の手に持つカッパーラには病気や不幸のシンボルである動物が。左手の八本の手に持つカッパーラには、病気や不幸から打ち勝つ為の神々が描かれている。

 

■カーラチャクラ

時間のサイクルを意味するカーラチャクラ(『カーラ』は時間『チャクラ』は輪)はイスラム教に対抗するため、仏教とヒンドゥー教が手を取り合い作り出した経典『カーラチャクラ・タントラ』の尊格だ。

 

代表的な四つのヘールカを紹介したが、チベット仏教では数多くの尊格が存在し、チベットの仏達の多様性を窺い知れる。

また、チベット仏教ではチャナ・ドルジェ(金剛手菩薩)と呼ばれる尊格が存在するが、彼は魔除けとして守りの護符として描かれる事も。

因みに他の尊格についてはこちら

チベット仏教における仏達の種類『代表的なチベットの神々とは?』

【日本の守り本尊】

冒頭にも述べた通り、自身の生まれた年の干支によって守り本尊が決まる。

以下は干支によって決まる尊格達の一覧だ。

【子年】

■千手観音

千の手と千の目を持つ、千手千眼菩薩とも呼ばれる菩薩。

彼が何故で、こんなにも多く手があるかというと、千の手や眼であまねく全ての人々を見渡し、救う為であり、大変慈悲深い尊格だ。

 

【丑年・寅年】

■虚空蔵菩薩

無限の智恵と記憶力を持つ尊格。

【卯年】

『3人よれば文殊の知恵』で有名な尊格で、右手に煩悩を滅する宝剣と左手には経典を持つ、智恵を司る尊格。

因みに日本では獅子に乗った姿で描かれる事が多い文殊菩薩だがチベット仏教では、数多くの姿で描かれ、妃を抱いた姿や多臂の文殊菩薩等、様々な図像で表されてきた。

 

【辰年・巳年】

■普賢菩薩

慈悲と理知で人々を救う尊格で、六本の牙を持つ象に乗った姿で描かれる。

因みにチベット仏教ニンマ派では、普賢菩薩は本初仏まで地位が上がり、真理や菩提心を象徴する究極的な仏となった。日本では天衣を付けた菩薩の姿で描かれる事があるが、ニンマ派においては青い裸体で妃を抱いた姿で描かれる。

 

【午年】

■勢至菩薩

智恵の光で、大勢を照らし迷いの中から導く尊格。

 

【申年・未年】

■大日如来

胎蔵界・金剛界曼荼羅の中心に坐す仏であり、密教では真理(ダルマ)そのものだと考えられている。

【酉年】

■不動明王

大日如来の化身ともされ、五大明王の中心的存在。

日本では絶大な人気を誇り、宝剣を持つ童子形の姿で描かれるがチベット文化圏では忿怒の姿が一般的だ。

 

【亥年・戌年】

■阿弥陀如来

西方浄土に住む無限の光と無限の命を司る仏であり、無量光(アミターバ)無量寿(アミターユス)とも言われている。

 

【インド・ネパールの守り本尊】

仏教における仏達のカテゴリーから選び出す守り本尊という形では無いが、インドやネパールを旅して分かったのが、概ねタクシーに乗ると身ずらの『守り本尊』のような存在が飾られている事がある。

例えばネパールはヒンドゥー教、チベット仏教が盛んな国だが、タクシーに乗るとヒンドゥー教の象頭神ガネーシャの仏像が置かれている事がある。

 

ガネーシャの意味するところ、商売繁盛を司る神でありヒンドゥー教文化圏では大変人気の神様だ。

誠に商売繁盛という意味では理にかなっている神様だが、このような『何かを願って』願掛けしているような事はタクシーのみならず、露店でもヒンドゥー教の神々の護符を販売されている。

 

このような事は日本では中々見ることは出来ないが信仰心が高い人々が多い国ならでは風景だろう。

 

また、インド・ラダック地方はチベットよりもチベットらしいとされ、仏教美術が数多く残されている地域だが、この地を旅して思ったのが、タクシーには必ずといっていい程、ダライ・ラマの写真があるという事だ。

 

現在のチベット(自治区や自治州)ではダライ・ラマの写真が禁止され、所持するだけで処罰の対象となっているが、信仰の自由が許されているラダックは、チベットとは実に対象的だ。

 

チベット人やラダック人はダライ・ラマを敬愛している為か、タクシーに写真が飾られているのだと思うが、これも『守り本尊』のような役割を持っているんだと思う。

チベッタンに愛される活仏ダライ・ラマ『インド秘境の地で見てきたもの』

以上のように仏教・ヒンドゥー教における『守り本尊』という習わしを見てきたが、日本では中々知る事が出来ない文化ばかりで、こういった文化を実際に旅して知り得る事が出来るというのが『旅』の醍醐味だ。

チベット旅行情報サイト『漫画仏画絵師』では、このような仏教文化も発信しているので興味のある人は注視してほしいと思っている。

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