秘境チベットには『チベット版がしゃどくろ』
というべき骸骨の神様がいる。
彼らの名はチティパティ(屍陀林王)。
『チティパティ』とは『墓場の主』という意味で髑髏の杖を持って、踊っていたりヤブユム(交わった姿)の姿をとっていたりする。
また仏画や寺院の壁画のテーマとして描かれチベット各地で異形の神様の姿を見ることが出来る。
チベットにはチティパティの他、沢山の異形な姿をした神様がいる。
【チベット版がしゃどくろ】
水木しげるの妖怪図鑑にも登場する『がしゃどくろ』だがチベット版は少し意味が違っている。
というか全身骨という事以外、全く違うのだ。
がしゃどくろは亡き者が集まった怨霊のような存在だがチティパティは名前の通り墓場の守護神。
彼らは元々苦行者で泥棒に首をはねられても、なを瞑想を続けていたという位信心深い存在です。
チベットにはチャムという僧侶による仮面舞踏がゴンパ(寺)で開催されているがチティパティが登場する事もある。
チティパティに扮した僧侶達は骸骨の仮面を被り病魔を退散させる役割を担っている。
因みにボクはチャムをラダックで見たことがあるが、チベット仏教の荘厳な僧侶達の舞いは感動を覚えさせる位だった。
【チベットの死の聖地巡礼】
チティパティが護る墓場・・
と言ってもチベットには墓場は無い。
ここでいう墓場は死者を葬る場所の事でハゲワシに遺体を喰わせる鳥葬を執り行う鳥葬場の事だ。
鳥葬は裕福なチベット人だけに行われるもので、チベット仏教の死生観が大きく関係している。
ゴンパに行くと六道輪廻図が必ず描かれているが、生前の業によって六つのいずれかの世界に生まれ変わると言われている。
天道・人間道・地獄道・餓鬼道・畜生道・阿修羅道
この内、最も悟りが開けると言われているのが天道と人間道で、ここで悟りを開けないと魂が未来永劫グルグル回ると言われている。
ハゲワシ達は肉体から離れた魂を天へと送る存在として鳥葬場の主役を務めている。
墓場と言えば以前ネパールに行った際、ヒンドゥー教の聖地パシュパティナートで火葬される人々の姿を見た事があった。
この聖地を歩いていると火葬によってモクモクと広がる煙が至る所で見られたり
苦行者が死が包み込む聖地の中で瞑想していたり
輪廻思想を信じるヒンドゥー教徒がこの聖地で火葬される様は死とは何なのか?
生きるとは?
と、異国の死生観に思いをはせた経験がある。
死の光景はパシュパティナートの他、スワヤンブナートにあって仏教徒が火葬される光景を見ることが出来る。
ボクは美しい仏教美術を見ていく内に偶然、葬儀場に入ってしまい遺族達が泣き崩れる様は印象的だった。
ボクのお母さんに火葬の事を話すと
「さらされるの!?信じられない!」
とひどく驚いていたけれど、それがネパール
それが秘境チベットの死の文化なんだと思う。
魂が肉体から離れたら、もうそれはただの抜け殻・・
チティパティはそんな死生観の中で誕生した神様だという事がチベット文化圏に行くと否応なしに判ってくるのだ。