絵(仏画)の描き方『尊各をそのまま描いてはいけない?』

ボクは以前、世界堂主催のコンペ『世界絵画大賞』に応募し賞を受賞したことがある。

当然今まで描いてきた仏画の描き方で作品を仕上げたのだが、受賞式の後の作品品評会で審査員の方からこんな事を言われた事がある。

 

『そのまま描いてはいけない。』

 

これはどういった意味なのだろうか?

ボクの絵を見た審査員が

「この絵に描いてある枠や神様みたいのは何か見て描いたのか?」

と答えたので

ボクは「ネパールの本や仏画を参考に描いた。」

と正直に答えたのだ。

 

すると審査員は「そのまま描いてはいけない」と答えたのであった。

 

一体何がまずかったのだろうか?

 

【枠が原因?】

もしもボクの絵の特徴の枠の事を言っているのだとしたら大きな間違いである。

ボクはタンカ(チベット仏教画)を参考に絵を描くことが多いがタンカに枠が描いてあるものは少なく、そもそもボクの装飾的な枠はボクオリジナルのもので何かを真似て描いた訳では無い。(ただし地獄を舞台にした漫画『鬼灯の冷徹』の表紙には装飾的な枠が描かれている。)

 

【色が原因?】

もしも仮に色の事を指しているのなら残念だが変えようが無い。

仏画に描かれる尊各は体の色を始め持ち物までに至るまで細かく決められていて変えようがないからだ。

 

例えば慈悲の女神“緑ターラー菩薩

 

体は緑で右手を予願印で結び左手は蓮華を持ち半跏(右足を蓮華に置き座っている)姿で座っている等ルールがあるからだ。

 

だから勝手に勝手に変えてはいけないのだ。(タンカの場合、伝統を受け継いでいくという意味もあるだろうし、そもそも仏画は鑑賞物である前に信仰の対象であったり僧侶等の修行用の道具であったりする為。現にラダックで訪れた際タンカに向かい熱心に五体投地を行っている人を見たことがある。)

そのような理由でボクは仏画を漫画風にアレンジしてオリジナリティを出しているが一応ルールに乗っ取って描いているつもりだ。

 

【尊各の描き方が原因?】

 

恐らく「そのまま描いてはいけない」というのは尊各の描き方を指しているのではないかと思う。

ボクは世界絵画大賞に出すにあたりチベット仏教を代表する尊各“チャクラサンヴァラ”を描くことにした。

チャクラサンヴァラは青い体の多面多臂の尊各でヤブユム(男尊と女尊が抱きしめあった姿=知恵と方便の意味)の姿をとりヒンドゥー教の最高神シヴァと妃を踏みつけている。

密教特有の妖艶なお姿だったし日本では見られない尊各だと思ったからだ。

ボクは資料等を参考にチャクラサンヴァラの姿そのままで描いた。

理由は先に書いたように仏画にはルールがあり信仰の対象であるからだ。

仮にもしオリジナリティを追求するあまり本来の尊各と逸脱したものにしたらどうだろうか?

 

例えば‥

 

● お釈迦様がラッパーの姿をしている。

● 文殊菩薩が野球服をきて宝剣の代わりに釘バットを持っている。

● 女子高生姿の女神ターラー

 

アイディアとしてはいいかも知れない。オリジナリティもあり面白い絵になると思う。

だがもしもこんなものを描いたら、もはや仏画とは言えないしチベット人や仏教徒が不快な思いをするかもしれない。

だからボクはチャクラサンヴァラをあえてそのままの姿で描いたのだ。

 

【結論】

 

「そのまま描いてはいけない」とは姿そのままを描いてしまった事に対しての発言である可能性が高い。

ただこの言葉通り仏画をオリジナリティ溢れる、そのままじゃない絵にしてしまうと仏画ではなくなってしまうので注意が必要だ。

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