絵を売るという時に作家が直面するのは絵の値段を幾らにするのか?という問題。
実際ぼくも長い間、画廊で絵を売ってきたが、お寺から絵の依頼を請け負う為、自身で考えた絵の価格を考えて売り込みするという事は結構難しかった。
では、そんな時
どうしたのか?といえばお世話になっている画廊と相談したのである(通常個展等を行う場合、画廊と相談の上、値段を決める)
画廊での販売価格をそのまま付ければいいじゃん!
と考えがちだが自由に描く絵と依頼絵だと価格は違うのである。
何故なのか?
といえば依頼絵の場合(ぼの場合)お寺でお祀りしている仏像を描くだったり境内を描くという場合でも
依頼主の方と話合い御要望に応じた絵を描くというのは自由に描く絵とは違う価値、つまり依頼主の為に描いた世界でたった一つの絵を描き上げるという事。
また、絵によっては時間のかかる場合がある。
特に境内図に関してはA4やB4のような小さいサイズであっても描き込み量があるので時間がかかるのである。
自由に描いたA4やB4サイズの絵はぼくの場合、2~3日で終わってしまうかもしれないが境内図のように
写真から起こして頭の中で組み立て絵を完成させるまでには、どうしても3週間~1ヶ月は必要になる。
だからこそ2~3日で完成させた絵と1ヶ月位かけて完成させた絵では使っている画材が一緒だったとしても同価格には出来ないのである。
【難しすぎる絵の値段の付け方】
絵の値段はキャンバスのサイズごとに上げていくのだが、やっぱり初めて絵を売るという場合、値段を決めるのは難しい。
よく言われているのが経歴が浅い場合、一番小さい0号が数千円スタートにして経歴を積む事に値段を徐々に上げていくという方法。(ぼくの場合、初個展から数年後、0号が一万円を超えていた)
あと時給換算という方法もある。
1時間、いくらで描いてるのかというのを意識して値段を付ける方法というのもある。
ただ、どちらにせよ絵の値段というのは自分で考えのは結構難しい。
だからこそ値段の付け方は画廊と相談というのが一番になってくる。
ただ値段については何度も個展等を開催する事に自分の絵の値段というのが段々と分かってくるので
特にフリーで活動していく場合、一体いくらで売るのか?
という事を養っていく為にも、よく値段については考えておく必要がある。
【絵を安くして売るという事】
ぼくは新潟市古町にある日本アニメ・マンガ専門学校で絵の描き方や絵の具の使い方等を教えてもらう授業を担当していた先生からのご紹介で
古町にある画廊で個展を開催する事になったのだが、0号4500円〜6号12500円(だいぶ昔の事なので価格はうろ覚えだが)という安値での展示販売だった。
恐らく画廊の考えでは安値で販売する事でお客様に手に取ってもらいやすくする→ファンになってもらう、という事だったのではないかと思っている。
勿論、当時は超がつくほどのアマチュア画家だったし、昔は今よりもずっと荒っぽく、絵の具の使い方もよく分からなかったので妥当だったのではないかと思う。
そんな安値での販売戦略の為か安い価格で販売していた頃のお客様が何度か絵を買ってくれたという事があった。
じゃあ、絵を安くして売って手に取ってもらいやすくしよう!
という風にならないでもらいたい。
安値での販売というのはアマチュア時代の話で現在のように実績をつんだ後に価格を大幅に下げるという事は自分自身の絵の価値を下げるという事。
つまり自分で自分の首を絞めるという事ほかならないのである。
また、デメリットも色々ある。
はじめに大切にされない。
ある時、自分で描いた絵を調べていた時の事なのだが某オークションサイトで昔描いた絵が落札されていたのである!
しかも安値で!
これは結構ショックな出来事だった。
まだまだ絵描きとしては歴が浅かったので仕方ないが自分としてはよく描けた絵(当時は)だと思っていた絵がオークションサイトに出品されていたのである。
そう、その絵は安値で個展で展示販売されていた絵だったのである。
絵に限らずなのだが、ぼくは服が好きなので服を例にとっても全く同じ事が言える。
例えば衣料品店で1000円で買った服と2~3万円で買った服、どっちが大切にされるだろうか?
安く買った服というのは古着として売ったり、捨てられたりという事が大なり小なりあるのではないだろうか?
逆に高く買った服というのは本当に気に入った物だからこそ買った場合が殆どだと思うので
今は着ていない、にしてもコレクション用として大切にされたりするのである。
絵の場合なら尚更で安値で売った絵の末路はどうなるか分からない、逆にある程度価格のある絵というのは、大切にされるのである。
そもそも気に入った絵が本当に欲しいのなら値段は関係ない!という事をつけ加えでおこう。
また、既に依頼がいくつもあった中で
絵が売れない!
という理由で価格を下げる行為は厳禁である。
提示した金額でご依頼頂いた方が、価格を下げて提案している事を知った時、どう思うだろうか?
何やってるんだ!?
とあたりまえだが信頼・信用はガタ落ちである。
と同時に作品の価値も落ちてしまうので絶対やめましょう。
安値で売る・作品の価値という点でもう1つ。
フリマアプリやスキル販売アプリ等で価格で絵を売る方を見かける事があるのだが
画家として活動している、ぼくとしては懸念している事がある。
それはアート業界全体における作品の価値を下げてしまう事に繋がってしまうのではないか?
という懸念である。
絵はこんなに安く買えるんだ!
と思っている人が増えれば業界全体が萎縮し、価格を抑えた絵を売る作家さんが増えてしまうのではないかと思っている。
例えば同じ位の絵の技術を持つ2人のアーティストがいたとして
Aがフリマアプリで5000円で請け負っている、Bが30000円でプロとして個人で請け負っている。
依頼者は絵を描いてほしい場合、どちらを求めるだろうか?
Aは確かに安いかもしれない、ただ絵が安いという事が広まってしまえばBのプロの作家さんも値段を抑えて売るしかなくなり活動が出来なくなってしまうのではないか?
妄想かもしれないが、そんな懸念があるのである。
【「絵が高い」と言う人間達】
「絵が高い」
ぼくは過去、何度かそんな風に言われた事がある。
ただ反対に「絵が安い」「リーズナブルだ」と言われた事がある。
一体これはどういう事なのだろうか?
ぼくが思うに「絵が高い」と仰る方は絵を買った事がない、アート作品の価値・価格が分からない方である可能性が高い。
反対に「絵が安い」と言って下さる方は絵を買った事がある、アート作品の価値・価格が分かる方であり
だからこそ値段を聞いた時、比較出来るし、高い安いというのが分かるのである。
これは、ぼくの考えだが絵の値段が分からない方は結構多いのではないだろうか?
ただ、これは仕方のない事だと思う。
何故なら日本はアート後進国であり
ぼくが住んでいる新潟でアートを触れようとすると美術館や画廊やイベント等、ごく限られた場所しかないのである。
しかも、そういった場所はアートが好きな人しか行かない事が殆どだと思う。
もっと言えば、作品鑑賞から踏み込んで絵が欲しいという人は限られてしまう。
これが日本なのである。
反対に海外はアート先進国であり
以前、ライブペイントを行う為に行ったオーストラリアを例に出すと
街の中を歩けば壁画が至る所に描かれバスキング(路上販売)しているアーティストさんが多い。
ぼくも路上で絵を描いて売ったりしたが声をかけてくれる人も多く
絵が売れたり、チップを恵んでもらったりとアートに対して寛容な人が多い印象だった。
あと絵の値段に関しては、オーストラリア旅でこんな経験があった。
ぼくが泊まっていたキャンプ場で知り合いになったフランス領レユニオン島出身の外国人の好意で
一緒にマーケットに参加した時の事だ。
ぼくは会場でライブペイントをしながら絵を売るという事をしていたのだが
通りすがりのオーストラリア人が絵の値段を聞いてきたのだ。
その時、ぼくは展示販売している絵を(値段は忘れたが)安値で言ってしまったのだ。
すると、その人は呆れたように笑われ立ち去って行ってしまった。
隣にいたレユニオン島のアーティストさんは
「もっと値段をあげなきゃダメだよ」
と値段について指摘してくれたのだ。
ぼくはこの時、安くした方が買ってくれるのではないか?
と思い、安値で言ってしまったのだが
これは逆効果で絵の値段を下げた事で自分で絵の価値を下げてしまったのである。
特に海外は目の肥えた方や日頃からアートに触れる機会が多い方が多いので
高くても買ってくれる人は多い。
それは現地に住んでいる日本人も同様で
帰国間際にボードにペンで描いた曼荼羅を売ったら250ドルで売れてしまったのだ!
お金ナイナイ生活が続いていたので本当に嬉しかったですね!
売れたのは海外だからでしょ?
と思った、そこの貴方
日本でも絵は売れるのです。
個展や営業をする事で生活できるかどうかは別として提示した金額で絵が売れるという事実。
「絵が高い」と言っている方の中に絵を高く売っていいのは有名じゃないといけない!
みたいな考えのある方がいたとしたら、そもそもその考えは間違っているのである。
事実ぼくより高い値段で絵を売っているアーティストさんは沢山いるし無名でも何度も個展を開催したりWeb上で絵画教室を開き絵で生活をしている方が、ぼくの知る限り一定数いるのである。
アートで活躍する=村上隆や草間弥生のような誰もが知る有名アーティストである必要はないし
有名(そもそも有名とは何ぞやという話だが)になるまで安値で売り続けるなんてナンセンスな話なのである。
あと
「絵はタダで描くべきだ」
「商売事みたいな真似はやめてくれ」
と、活動を否定してくる人がいる事だ。
彼らには彼らなりの考えがあるのだが、こっちとしては頑張ってるのに
このような事を言われると、やっぱりメンタルが病んでしまう。
そういう時は左からきたものを右に受け流す位で捉えておこう。
あまり深く考え過ぎると本当に病んでしまうので、モヤモヤしている時は家を飛び出て遠くへ行ってしまうのも一つの手なのである。
【絵の価値とは何なのか?】
絵というのは、その絵に価値があるからこそ相応の値段がある。
ぼくのように時間をかけて細かい絵を完成させる事への価値。
反対に短い時間でクオリティのある絵を完成させる事をへの価値。
アートというのは鑑賞する事で感動したり心を動かされたり、あるいは絵の中に学びがあったりする事があるので
そういった所にも価値がある。
有名アーティストの作品は作家自身が有名なのだから確かに価値がある。
だが無名作家の作品は有名じゃないから価値がない
なんて事はないのである。
アーティスト以外の人からすると、絵が上手いのはアーティストだからでしょ?
と思うかもしれないが、大違いである。
人に見て貰える、買って貰える作品になるまで、やっぱり何年何十年と時間がかかる。
まるでダイヤモンドのように。
磨いて磨いて、磨き続ける事で価値が生まれる。
絵の値段が高いというのなら
実はそういった作家さんの苦労や経験、努力の結果として、
その値段、つまり価値があるのではないかと思っている。
【まとめ】
今回、絵の値段についてと価値について話してきたが絵の価格には、それなりの理由があるという事だ。
だからこそ絵の値段を下げるというのは慎重に行わなければいけないし安売りなんてのは論外である。
絵は自分自身の価値を下げない為にも安売り絶対やめましょう!
という話でした。ではでは…