東チベットと聞くと旅人の間で有名なラルン・ガル・ゴンパを思いおこさせる人は多いのではないだろうか?
だが現状ラルン・ガルは外国人立ち入り禁止で無理に外国人が行こうとすると公安に追い返されるという事態になる。
ラルン・ガル・ゴンパというのは東チベットのセルタという町にある巨大僧院で一つの宗教都市のように形成されている。
ぼく公安のお世話になりたく無いので行った事はないがSNSやネット画像を見る限り赤い屋根の僧坊で埋め尽くされ見事な絶景を作り出している。
ラルン・ガルに行けないというのなら同じく東チベットの白玉にあるアチェンガルに行こうぜ!
と思い立つ人がいるかもしれないが、この僧院もまた外国人立ち入り禁止となった。
ぼくはその二つの僧院が外国人立ち入り禁止でそこに行かなければ安全に東チベットを旅出来るのではないか?
と思ったが政治的に微妙な時期に行くと泊まりたい宿に泊まれなかったり
あるはずのチベット仏教の聖地が無かったりと旅したからこそ分かった東チベットの現状が見えてきた。
【中国の春節が危険な理由】
始めに旅をする上でどうしてもお世話になる場所、それが宿だ。
東チベットは元々政治的に微妙なエリアで外国人禁止の宿も実際にあるのだが
そうでない外国人OKな宿も春節が近付くと突如泊まれなくなったという事があった。
例として以前泊まれたゾルゲの宿やマルカムの宿が冬に行ったら
ダメだ。
と理由は不明だが泊まらせてくれなかった。
また運良く宿に泊まれても公安に通報されたり事情聴取されたりと当局監視下のもと泊まる事になる。
実際にぼくは事情聴取されたけどスパイ罪になるのではないかとビクビクしながら質問に答えたとという経験がある。
一体中国当局は何をそんなに恐れているのかと思うのだが
春節やチベットの正月ロサーで興奮したチベット人が何かをしないかと当局が警戒しているのだ。
例えば抗議の焼身自殺。最近では減ったが今でも中国当局からの弾圧や監視が続き
それに対する抗議の意味合いで焼身自殺をするチベット人があとをたたない。
チベット以外でもチベットの旗を掲げフリーチベットと叫ぶ人達が旅の中で出会ったりする。
以前行ったヒマラヤにあるラダックの町レーでも抗議活動をしているチベット人達がいた。
彼らなフリーチベットとプリントされたTシャツを着たりチベットの旗を持っていたりしているが
もし仮にチベット本土で同じ事をしたら即逮捕され強制収容所送りになる。
ましてチベットの精神的指導者ダライ・ラマの写真を持っているだけで捕まるのだから、中国当局が警戒しているのもうなずける。
ただしチベット人のお宅に訪問したり寺院に行ってみるとダライ・ラマの写真が密かに置いてあったりする。
中国当局がどんなに締め付けても心までは締め付けられないというわけだ。
また春節という時期に東チベットに行くとスパイ罪になる可能性もあると友人のチベット人が教えてくれた。
日本が中国にスパイを送るなんて考えられないけれど、中国としては見られたくないものがある(軍施設や弾圧の事実など)ので
チベットを旅するときは、そう疑われる可能性がある写真を撮らないなど気を付けている。
【破壊されるチベットの聖地】
東チベットのラルン・ガルやアチェン・ガルは規模が大きくなりすぎた為
現在では中国当局によって僧坊を破壊され規模を縮小された上、そこで修行していた僧侶達を追い出すという事までしている。
こうした事実があるので外国人が立ち入れないのだが寺以外に目を向けてみると同様にチベット仏教の聖地を破壊している実態もある。
ぼくが驚いたのはアムド地方のゾルゲにあった聖地ラツェと呼ばれる遺体を安置する場所だ。
以前ゾルゲから川主寺行きのバスに乗った時に見たタルチョー(祈願旗)で埋め尽くされた聖地にどうしても行きたくなり
後年再びゾルゲを訪れた際に行ってみよう!
と思い立ちゾルゲ・バスターミナル周辺にいるチベット人の運転手にラツェに行きたいと言ったのだが
そんな場所は知らないという。
他のチベット人達も集まってきたので「ラツェ」とか言ったり地図にタルチョーの絵を描いて、この場所に行きたいと言ったのだが・・
やはり彼らは知らないと答えた。
ラツェ、もしくはドゥルサと呼ばれる聖地がある事はゾルゲ周辺に詳しい日本人から得た確かな情報で間違っていると考えづらいのだが・・
その理由がゾルゲから成都に戻るバスの車内で知る事になる。
ゾルゲから成都行きのバスは川主寺を経由するので、聖地があることを確認できるはずだったのだが
無かった。
そう、以前バスの車内から見たタルチョー密集地そのものが無かったのだ。
まるで狐につままれたような感じでタルチョーがあったという痕跡すら無かったのだ。
仏教を敬うチベット人が自主的に聖地を破壊するとは考えづらい。
一つ考えられるのは中国当局の圧力があった事だ。
彼らはラルン・ガルやアチェン・ガルの規模拡大を恐れ破壊したのだから同様にゾルゲの大草原に広がっていた
ラツェと呼ばれる聖地も破壊したと思われる。
正に臼をひいて粉にした中国当局の一連の行為は共産党の力を強め仏教の力を弱体化させる行為の一つなのである。
世界には信仰の自由は保証されていると中国当局が言っているのかもしれないが現状どうだろうか?
僧院や聖地は破壊されダライ・ラマの写真を持つだけでも逮捕され収容所で拷問や思想教育を受ける。
チベット人の人権や信仰などどこにも保証されていないのである。
【SNSで自由に発信出来ない中国】
ダライ・ラマ法王日本代表部事務所によれば2019年9月16日にンガパ(四川省アバ県)のキルティ・ゴンパの僧侶ソナム・パルデンが連れ去られて監禁状態であるという事を発表した。
逮捕理由は不明だが彼はメッセージアプリwechat内でチベット語政策について発信した事ではないかと推測される。
中国支配下のチベットでは文化そのものと言っていい言語に関しても制限していて
2018年に青海省ナンチェンにある寺で開かれたチベット語クラスの禁止を発表した。
同化政策をすすめる中国当局の締め付けは言語にまで及び
これに反対するチベット人は当然ながら多い。
このような反政府と取れる言動を現実世界で行うのは身の危険が及ぶのでSNS内で
しかも個人的なメッセージ内で語ったというだけで当局に発覚されてしまうという事はwechatそのものが監視されているようだ。
そのため自分は中国が好きである、チベットは中国であると取れる内容を発信しているチベット人もいる(真偽はともかく)
wechatは確かに便利なのだが、このような側面もあるので危険だという事を忘れてはならない。
だからと言ってTwitterなど日本で普通に出来るSNSやグーグルは禁止されているのだから自由に発信する事すら出来ない。
恐ろしい話だが情報統制を行うという事は事実すらねじ曲げられてしまう話なので
中国がいつか自由に発信出来る国になって欲しいと願うばかりである。
【チベット自治区と東チベット】
昔からチベット自治区に入域するためのパーミット(許可証)が不要になる時代がやってくる。
と言われてきたが現状未だにパーミットが必要でツアー形式でしかチベット自治区に入る事は出来ない。
また時期によって行く事が出来ない時があると聞いた事があるが理由は上記で説明した通りで
ツアー形式をとっているのも中国当局が見せたくない部分があるからだろう。
一転東チベットは四川省や青海省等に組み込まれたこともあって自由に旅出来るがやはり監視されていると思って旅した方が無難。
ネガティブな事を書いてきたが実際に旅してみると不自由さはあまり感じることはなく(外国人だけに言える事だが)
公安に目をつけられない節度ある行動している限り怖い思いをうける事もない。
旅をすれば素朴な人々や美しい僧院を目にする事が出来るが外国人が分からない所で恐ろしい事が今も起こっている。
これが中国支配下のチベットの現状でそれは彼らから解放される日まで延々と粛々と続けられるのだ。
【まとめ】
この先チベットがどのようになるのか?
旅をする度に変化する東チベットの未来は中国当局の政策の進め方しだいだと思うが
方針をチベット人に沿ったものにしない限り理解を得られないので
チベットの未来は決して明るい方向に向かわないだろう。